微分演算子を導入することで微分方程式を代数操作に置き換える方法

はじめに

微分方程式は、物理学や工学、経済学などの多くの分野で現れる重要な数学的手法です。しかし、その解法は一般に複雑であり、特に高階の微分方程式や非線形微分方程式になると、解析的な解を求めることが困難になります。しかし、微分演算子を導入することで、微分方程式を代数的な方程式に変換し、よりシンプルに解くことが可能になります。本記事では、微分演算子とは何かを説明し、それを用いて微分方程式を代数操作に置き換える方法を解説します。

微分演算子とは何か

まず、微分演算子について説明します。微分演算子とは、関数に対して微分操作を行う“操作子”として理解できます。たとえば、変数 \(x\) に関する微分を表す \(\dfrac{d}{dx}\) を用いて、関数 \(f(x)\) の微分は \(\dfrac{d}{dx} f(x)\) と表されます。ここで、微分演算子 \(D = \dfrac{d}{dx}\) と定義すると、\(Df(x)\) と簡潔に表記できます。

微分方程式の演算子表記

微分演算子を導入すると、微分方程式をより簡潔に表現できます。例として、次の線形微分方程式を考えます。

$$\dfrac{d^2 y}{dx^2} – 3\dfrac{d y}{dx} + 2y = 0$$

ここで、\(D = \dfrac{d}{dx}\) と定義し、\(D^2 = \dfrac{d^2}{dx^2}\) とします。すると、この微分方程式は次のように書けます。

$$(D^2 – 3D + 2)y = 0$$

これにより、微分方程式が微分演算子 \(D\) に関する多項式の形になり、まるで代数方程式のような形になります。

微分演算子を用いた解法

微分演算子を用いて微分方程式を代数的に解くためには、特に線形で定係数の微分方程式の場合に有効です。上記の例では、\(D\) を未知数とする代数方程式のように扱うことができます。

まず、特性方程式を考えます。微分演算子 \(D\) を単に未知数 \(r\) に置き換えると、次の代数方程式が得られます。

$$r^2 – 3r + 2 = 0$$

この二次方程式を解くと、

$$r = 1, \quad r = 2$$

となります。これらの解は、もとの微分方程式の一般解を構成する指数関数の指数部として用いられます。したがって、微分方程式の一般解は次のようになります。

$$y(x) = C_1 e^{r_1 x} + C_2 e^{r_2 x} = C_1 e^{x} + C_2 e^{2x}$$

ここで、\(C_1,\ C_2\) は任意定数です。

演算子の代数的操作

微分演算子を用いると、微分方程式の解法は代数方程式の解法と類似した手順で進めることができます。これは、微分演算子が線形演算であり、演算子同士の加減乗算が代数的に定義されているためです。

さらに、特別な関数(例えば指数関数や三角関数)に対する微分演算子の作用は、元の関数に定数倍やシフトを与える形になるため、演算子を代数的に操作することが可能になります。

演算子法による微分方程式の例

もう一つの例として、非斉次の微分方程式を考えてみましょう。

$$\dfrac{d^2 y}{dx^2} – 2\dfrac{d y}{dx} + y = e^{3x}$$

微分演算子を用いると、

$$(D^2 – 2D + 1)y = e^{3x}$$

ここで、左辺の演算子は \((D – 1)^2\) と因数分解できます。したがって、

$$(D – 1)^2 y = e^{3x}$$

この方程式を解くために、演算子の逆元(グリーン関数)を考える方法や、特解を求める方法があります。例えば、特解 \(y_p\) を仮定する際に、右辺が \(e^{3x}\) であることに注目して、特解を \(y_p = A e^{3x}\) と仮定します。

これを元の微分方程式に代入すると、

$$[(3)^2 – 2(3) + 1] A e^{3x} = e^{3x}$$

すなわち、

$$[9 – 6 + 1] A e^{3x} = e^{3x}$$

となり、\(4A e^{3x} = e^{3x}\) なので、\(A = \dfrac{1}{4}\) となります。

これにより、特解は \(y_p = \dfrac{1}{4} e^{3x}\) となります。一般解は、同次方程式の解と特解の和として表されます。同次方程式

$$(D – 1)^2 y = 0$$

の解は、\(r = 1\) の重解を持つため、一般解は

$$y_h = (C_1 + C_2 x) e^{x}$$

よって、元の微分方程式の一般解は

$$y = y_h + y_p = (C_1 + C_2 x) e^{x} + \dfrac{1}{4} e^{3x}$$

となります。

まとめ

  • 微分演算子 \(D = \dfrac{d}{dx}\) を用いることで、微分方程式を代数的な形式で表すことができる。
  • 演算子を用いた微分方程式は、特性方程式を解くことで、解を求める手順が代数方程式の解法と類似する。
  • 特に線形で定係数の微分方程式の場合、微分演算子を導入することで解法が簡略化される。

微分演算子の導入により、微分方程式の解法がより体系的かつ代数的に扱えるようになります。これによって、微分方程式の解析が容易になり、物理現象や工学的問題の理解と解決に大いに役立ちます。微分演算子を活用した手法をマスターすることで、より高度な数学的問題にも対応できるようになるでしょう。