矩形波で学ぶ「ほとんど至る所(almost everywhere)」の概念

はじめに

「ほとんど至る所(almost everywhere)」という言葉は、測度論やルベーグ積分論でよく登場する重要な概念です。
ざっくり言うと、ある性質が「ほとんど至る所」で成り立つとは、「例外となる点の集合の測度が 0 である」ということです。
今回は、この「ほとんど至る所」という考え方を、矩形波という例を用いて説明します。

矩形波の例

矩形波とは

まずは、簡単な矩形波の例を定義してみましょう。周期 2 の矩形波 \(f(t)\) を以下のように定義します。

$$
f(t) =
\begin{cases}
1 & \text{if } 0 \leq t < 1, \\ 0 & \text{if } 1 \leq t < 2. \end{cases} $$

そして、これを周期 2 で繰り返す、つまり

$$f(t + 2) = f(t)$$

となるように拡張します。例えば、\(t\) が \(-1\) や \(3\) など任意の値に対しても、この周期性を考慮して同じ値をとるように定義するわけです。

不連続点と「ほとんど至る所」

この矩形波 \(f(t)\) は、区間の境界(例えば \(t = 1, 3, 5, \dots\))などで不連続となっています。不連続点は無数に存在しますが、実数全体の中で見れば有限または可算個の点の集まりにすぎません。
測度論の観点では、可算個の点の集合はルベーグ測度で見ると測度 0 になります。つまり、矩形波が不連続である「例外的な点」は測度 0 の集合に含まれるわけです。

ここで「ほとんど至る所」という言葉が生きてきます。
たとえ不連続点があったとしても、それらの点の集合が測度 0 であれば、残りの「ほとんどの点」で矩形波は 0 か 1 の定数値として振る舞っていると考えることができます。
他の関数 \(g(t)\) が、もしこれら不連続点の集合を除いて \(f(t)\) と同じ振る舞い(つまり同じ値)をとるならば、\(f(t)\) と \(g(t)\) は「ほとんど至る所で等しい(equal almost everywhere)」と言えます。

まとめ

測度論でいう「ほとんど至る所(almost everywhere)」とは、測度 0 の集合を除けば性質が成り立つ、という意味です。矩形波のように周期的かつ境界で不連続な関数は、実際には不連続点が可算無限個存在するものの、可算集合は測度 0 となるため、それらの不連続点を無視しても(測度論的には)何の問題もありません。
このように、「関数の定義をほんの少し(測度 0 の点の集合内)変えても、測度論的には同じものとみなせる」というのが「ほとんど至る所」という概念の要です。積分や\(L^p\) 空間など、解析学のさまざまな分野でも応用される重要な考え方です。

以上が「ほとんど至る所」という概念と、矩形波による例示でした。測度論的な視点を取り入れることで、「不連続点がたくさんあるから困る」という発想から、「不連続点が測度 0 なら大丈夫」という柔軟な発想へシフトできるのが大きな魅力だと言えるでしょう。