はじめに
私たちは学校で、「負の数 \(-1\) を 2 回かけるとプラス \(1\) になる」と習います。つまり、
$$(-1) \times (-1) = 1$$
という事実です。これは代数的なルールとしては馴染み深いものですが、実際になぜこうなるのか、違った視点——たとえばフーリエ級数や複素数の指数表示の観点から考えてみるのも面白いかもしれません。
本記事では、フーリエ級数・複素数による波の表現を活用して、「なぜ負の数をかけ合わせるとプラスになるのか」を見ていきます。
フーリエ級数と複素指数関数の関係
フーリエ級数は「周期的な関数」を三角関数や複素指数関数の無限級数で表す手法です。
具体的には、周期 \(T\) の関数 \(f(x)\) を次のように表します(複素形式):
$$f(x) = \sum_{n=-\infty}^{\infty} c_n e^{i n x}.$$
ここで \(i\) は虚数単位 \(i^2 = -1\) です。
フーリエ級数を使って周期関数を取り扱う際には、しばしば複素指数表示によるアプローチが用いられます。実際、三角関数はオイラーの公式
$$e^{i\theta} = \cos \theta + i \sin \theta$$
によって、複素指数関数で表せるため非常に便利だからです。
複素数で見る「負の数」
負の数、とりわけ \(-1\) は、実数の範囲で考えていると「0 より小さい数」というイメージですが、複素数平面で考えるともう少し“幾何学的”にとらえられます。
実は
$$-1 = e^{i \pi}$$
という等式が成り立ちます。これは先ほどのオイラーの公式
$$e^{i\theta} = \cos \theta + i \sin \theta$$
に \(\theta = \pi\) を代入すると、
$$e^{i\pi} = \cos \pi + i \sin \pi = -1 + i \cdot 0 = -1$$
となることからわかります。
つまり、「\(-1\) とは “角度 \(\pi\) の回転を表す” 複素数」である、という解釈ができます。
「負の数同士のかけ算 = プラス」の導出
それでは、\(-1\) を 2 回かけたときになぜ \(1\) になるのか、複素指数の視点から見てみましょう。
$$-1 \times -1 = e^{i\pi} \times e^{i\pi}.$$
指数法則を思い出すと「同じ底の指数関数をかけ合わせると、指数部が足し算になる」という性質があります。すなわち、
$$e^{i\pi} \times e^{i\pi} = e^{i(\pi + \pi)} = e^{i(2\pi)}.$$
そして、
$$e^{i(2\pi)} = \cos(2\pi) + i \sin(2\pi) = 1 + i \cdot 0 = 1.$$
これにより
$$(-1) \times (-1) = 1$$
というおなじみの結果を導くことができます。
つまり、\(-1\) を「角度 \(\pi\) の回転」と捉えると、それを 2 回行う(かけ合わせる)ことで角度 \(2\pi\) の回転が起こり、これはちょうど 1 周回って元の位置(\(1\))に戻るわけです。
フーリエ級数的なイメージ:波の干渉における位相
フーリエ級数を扱う際にも、\(e^{i\theta}\) が「角度(位相) \(\theta\) の波」を表すと考えられます。この波同士を“かけ合わせる(= 重ね合わせる)”とき、位相が加算されるというのがポイントです。
- \(e^{i \pi}\)は、波の位相が \(\pi\)(180°)ずれている状態
- それを 2 回掛け合わせる(2 回位相をずらす)と \(\pi + \pi = 2\pi\) となり、
- 位相が \(2\pi\)(360°)回ると元の波形、つまり 1 に戻る
フーリエ級数は周波数成分ごとに「どれくらい位相がずれているか」を扱うため、負の数をかける = 位相を 180° 回転させる という解釈は非常にしっくりきます。
まとめ
- \(-1\) はオイラーの公式によって \(e^{i\pi}\) と表せる。
- \( (-1) \times(-1) = e^{i\pi} \times e^{i\pi} = e^{i(2\pi)} = 1\)。
- フーリエ級数や複素数の位相の観点では、「\(-1\) は 180° の回転」、「\(-1\) を 2 回かけると 360° の回転」という解釈ができる。
代数的なルールとして学んできた「負 \(\times\) 負 = 正」という事実も、フーリエ級数や複素指数の位相という視点から捉えると、より“幾何学的・波動的”に理解できるようになります。
こうした視点を知っておくと、フーリエ解析などを学ぶ際に「複素指数関数が本質的に位相や回転を表す」という点が腑に落ちるはずです。ぜひ、数学の世界を広い視野で楽しんでみてください。